10月
2009

学者のあるべき姿勢

今回は鄭先生の先生の話。

1981 年、中国改革開放後の第一回国費留学生としてイギリスのロンドン経済学院(LSE)に留学しました。鄭先生の指導教官は、知的財産法の国際的な権威、柯尼什(Cornish)教授。
柯尼什教授は自分が書いた教科書の出来に大そう満足しておられ、よく授業中、機嫌が良い時など、その本を学生に掲げて

「一頁、一段落をじっくり読みなさい!」

と諭しておられました。学生が柯尼什教授に知的財産法の教科書で最も良いものは何ですかと質問しようものなら、答えは決まって

「わたしの本だ」

というほど、自信をもっておられたわけです。正直に言えば、鄭先生の柯尼什教授に対する最初の印象はよくありませんでした。
なぜなら、ものすごい自信家だから…

その後、鄭先生の柯尼什教授のイメージががらりと変わるある出来事がおこります。
柯尼什教授の本の論述の中で、ある論述と彼が引用している事例がかみ合わないということに鄭先生は気づきます。
鄭先生は悩みます。

「自分の英語能力の問題なのか、はたまた自分の専門知識の欠如なのか?!」

悩んだ末、やはり腑に落ちないので勇気を出して柯尼什教授に質問しに行きました。柯尼什教授は最初、はっとしたかと思うと、まるで質問がよく分からなかったかのような態度をとったため、鄭先生はもう冷汗ダラダラ…
その質問は相手にされないのを覚悟していたところ、意外なことに、柯尼什教授の口から出た言葉は、

「それは、何頁?」

そこで、鄭先生が説明すると、1、2分眺めた後、申し訳なさそうな顔をされて、次のようにおっしゃいました。

「どうやら引用し間違えた、今度改訂する時に直すので、君や他の読者に申し訳なかったね」

その後、鄭先生は論文指導等を通じて、何度も柯尼什教授と話をする機会があるのですが、そこで柯尼什教授がおっしゃった言葉はなかなか印象的です。

「何かを成し遂げようとすれば、まず自信を持たなければならない。何にせよ無責任な異議をすべて認め続ければ、学問にはならない。でも、自分を完璧だと思っていては、進歩できない。」
そして、英語で「Don’t think you are nothing;Don’t think you are everything」と何度もおっしゃられたとか。

鄭先生も自分の著書に何か問題点があったら、いつでも言ってねという姿勢をとられていました。
実は、わたくしも鄭先生の著述に納得のいかないところがあったのですが、日本法に関する記述のため、日本語が分からない鄭先生に中国語又は英語では上手く説明できないなぁと思っているうちに月日は流れ、先生はお亡くなりになってしまいました。先生と凡人の差はここにあるのかなぁ。

ところで、以前、ある方々の論文に日本の判例が引用してあって、原文を見ようと日本の図書館で判例を探したけれども見つからなかったことがあります。
おそらく最初に引用された方が引用し間違えて、次の方は自分では原文を全く見ずに孫引きをしているのかなと思いました。
権威が書いたものだから必ずしも正しいとは限りません。ちゃんと自分の目で確認しようよ~

参考 http://www.iolaw.org.cn/showArticle.asp?id=1925