11月
2009

熟練、上手、下手の言葉の真意

中国語と日本語でニュアンスや意味の違う言葉があることは、昨今よく知られているところですが、今回はお稽古ごとに関する語彙で不思議な言葉を紹介しましょう。

中国語の「熟練」を辞書で引くと、次のとおりです。

shúliàn【熟练】
熟練している.上手である.
¶她打字很~/彼女はワープロがとても上手だ.
¶你的日语说得还不够bùgòu~/君の日本語はまだあまり上手ではない.
¶~工人/熟練工.
小学館日中・中日辞典 第2版

じゅくれん 【熟練】
(名・形動)スル [文]ナリ
十分に経験を積んで、上手なこと。高度な技能と経験を有すること。また、そのさま。
「―した運転」「―労働者」「―な漁師は/土(節)」
三省堂 大辞林

ふーん。日本語と同じ意味だね。と思って油断してはいけない。
以下のような中国語は「上手」と訳すわけにはいかないでしょう。

「老師,怎樣努力也彈不了這個小節(先生、どうやってもこの小節が弾けません)」
「熟練,就好了!(直訳誤訳:“熟練”すりゃいいんだよっ)」

辞書通りにそのまま訳しちゃうと「上手になれば、よいのです」となってしまい、禅問答ですな…上手だったら、練習する必要ないじゃん(^^;
ニュアンスを正確に訳せば、「慣れるまで練習しろ!」ということでしょう。
もっとも「熟」という言葉の意味には「慣れる」という意味もあるから、よくいわれるように、「ご飯を食べるのと同じように、日常になるまで、練習し続けろ」ということですな。

次は「上手」
これを中国語の辞書を弾くと

shàngshǒu【上手】
(1)始める.取りかかる.
¶今天的活儿一~就很顺利shùnlì/きょうの仕事は始めからとても順調だった.
(2)〈方〉手を出す.
¶这点儿事你们就别~了,我一会儿就干完/君たちはこんなことにかかずらうな,私がすぐにかたづけてしまうから.
(3)(~儿)順調だ.
¶工作很难,总zǒng不~/難しい仕事で,なかなか軌道に乗らない.

小学館日中・中日辞典 第2版

となり、日本語の「上手」という意味はまったく見当たりません。
でもね、琵琶について調べたりすると、例えば次のような文章に出くわします。

小孩子学琵琶。手指长度不够,在练琴时有困难,抱琴也有些困难。 还是鼓励年纪很小的小朋友学古筝,上手快些。

(参考訳:子どもが琵琶を習うということですと、指の長さが足りないので、練習や構える時に困難を伴います。とても小さなお子さんが琴を習うのであれば、上達するのも早いのでおススメですね。」

ニュアンス的にほとんど、「上手」と同じ意味で使っているよなぁ。
軌道に乗るのが早いというニュアンスなのでしょう。

それに対して中国語の「下手」には日本語の「下手」と同じ意味はみじんもありません。
中国語の意味は、基本的に漢字の意味そのままです。
「手を下す」(なんかこわ~い)

そもそも「手を下す」ことがなぜ、物事のできが悪いことを指すようになったのか、疑問ですなぁ。
と思ってネットで調べてみると「端」や「辺」が語源なのだそうで(末端とか底辺にいる人ってことなのでしょうね)漢字で「下手」と書くのは「下等」からきているのだそうな。
参考:語源由来辞典 http://gogen-allguide.com/he/heta.html